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コラム
Volume
27

中小企業にブランディングが必要な理由

高級商材を扱っているわけでもないのにブランディングが必要なの?とお考えの方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
ブランディングがどのような効果をもたらすのか、なぜ中小企業に必要なのか、といった疑問を少しでも解決できればと思います。

ブランディングとは

ブランディングとは、ブランド価値を高め、浸透・定着させる活動のことをいいます。
購買行動の際に自社の商品を連想してもらい、選んでもらう上でかかせません。しかし、実際には中小企業でのブランディングはあまり浸透していないように感じます。

時代の流れに乗った経営者が牽引する、というのも悪いことではありませんが、企業理念がしっかりとできていれば、時代が変わっても、もし主要メンバーが代わったり新しい社員が増えても、引き継いでいくことが可能です。
また、経営者や社員の道しるべにもなります。つまり、「経営理念 = 思想や価値観」を根底に根付かせることによって、流行りすたれにかかわらず、柔軟で強いブランドにすることができます。

ブランディングのメリット

それでは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
できるだけ噛み砕いてピックアップしてみたいと思います。

1. 価格競争からの脱却

ほとんど同じような商品やサービスがある場合、一般的に、顧客はより価格の低い方を選ぶ傾向にあります。その結果、同業者間において値引きを含めた価格競争になりがちです。

コモディティ化(同質化。性能や品質に差がなくなること)が進んでいる現在では、何かを突出させることは難しいですが、ブランディングがうまくできている=信頼感が形成されていると、価格競争に巻き込まれにくく、顧客がモノやサービスを選ぶ際には優先的な選択肢になることができます。ブランドの価値が高い状態であれば、多少価格が高かったとしても指名買いされることもあるでしょうし、指名買いでなくとも選んでもらえる可能性はぐんと高くなります。

例えば、3万円も出せばスマホは買えますが、iPhoneを買い続けている人は身近にいないでしょうか。5万円もあればそれなりに見栄えする腕時計が買えますが、ロレックスを何本も持っている人も少なくないでしょう。

同じようなモノやサービスが並んでいる時、多くの人は自分の知っているブランドを好み、選ぶ傾向があります。性能や品質は当然のことながら、ブランドへの信頼感やイメージが、意思決定要因として大きく関わっています。

このように、ブランディングによって信頼性と競争力が醸成されると、価格交渉からの解放や顧客単価のアップにもつながりやすく、中小企業のビジネスの持続可能性向上につながります

2. ファン化・リピーターの獲得

つい新規顧客の獲得に目が向きがちになりますが、新規顧客を獲得するには、既存顧客の5倍のコストがかかると言われており、利益を上げるにはいかにリピーターを増やすかということに注力する方が効率的です。

その有力な方法が、ブランディングです。ブランディングは一朝一夕にできるものではありませんし、それなりのコストも必要ですが、顧客生涯価値(LTV=Life Time Value、顧客が取引開始から終了までにどれだけの利益をもたらすか)の向上による経営の安定を考えると、コストパフォーマンスに優れています。

例えば、オシャレなスマホといえばiPhone、高級腕時計といえばロレックス、コスパ抜群の服といえばユニクロ、オシャレなカフェといえばスターバックス、といったブランド連想が強化されると、ブランドロイヤリティ(他のブランドがあったとしても特定のブランドを好む忠誠心)が高まり、特定のブランドを選び続けます。ブランディングによりファンを増やすことで、リピート率の向上が期待できます

3. 宣伝広告費の削減

ブランドが浸透して力を持ってくると、ファンやリピーターが増加します。そのような顧客は、特に宣伝しなくてもブランドを選び続けてくれます。そればかりか、ファンは自ら情報を発信し、クチコミやSNSで拡散してくれます。

第三者の情報であるクチコミやSNSは、企業が発信するメディアや広告よりも高い効果が見込まれます。つまり、ブランドに力があれば広告宣伝費の削減にもつながり、さらに利益率が上がるという好循環も期待できるでしょう

4. 社員のモチベーション・生産性の向上

ブランディングは対外的なものだけではありません。
例えば、社内の“ちょっとパソコンが得意な人”が作ったような名刺を持たされた社員はどう思うでしょうか。私なら、「あまり社員を大切にしていないのかな」と感じるでしょうし、営業の相手先に渡す時も恥ずかしいです。友人と名刺交換なんて絶対に避けたいです。

それとは逆に、よいブランドイメージが形成された会社に所属していれば、企業の大小にかかわらず、誇らしい気持ちで働けるのは容易に想像できるでしょう。(もちろん、名刺交換も自信を持ってできることでしょう)

現在では、インナーブランディング(社内向けブランディング。自社の理念やブランド価値を従業員に理解・浸透させる活動)が行われるほどに、重視されてきています。ブランディングを行うことで、価値観の共通認識や行動の指針ができ、企業(自社)にとって相応しい行動ができるようになります

社員が企業のビジョンや価値観に共感することで、モチベーションの向上による生産性のアップ、離職率の低減が見込めます。「社員に選んでもらえる」会社であり続けることは、「人財」を確保し、企業が持続・成長していく上で非常に大切だということができるでしょう。

5. 影響は採用活動にも

採用活動はお金もかかりますし、よい人材を見つけるのもなかなか難しいという現実があります。
しかし、ブランディングをすることで認知度が上がり、よい企業イメージが広まると、採用活動にも好影響を与え優位な立場に立つことが可能になります

応募の時点で自社に対して理解し「ぜひこの会社で働きたい」といった意欲の高い人材が集まり、より優秀な人材を確保しやすくなります。よい印象のあるブランドで働きたい、というのは想像しやすいのではないでしょうか。

ミスマッチは求職者にとっても採用する企業側にとっても不幸でしかありません。ブランディングに取り組むことは、ミスマッチを減らし、求める人材の採用にもつながるのです。

お客様が価値を決める

上記のように、ブランディングには大きなメリットがあります。しかし、最終的にブランドの価値を決定するのは受け手である顧客です。つまり、とりあえずロゴを作るというようなものではなく、ブランドがブランドとして齟齬なく認識され、浸透し、社会的信頼を獲得することが必要です。

そのためには、顧客向けブランディングはもちろんのこと、インナーブランディングを実行し、社員もブランドの価値を理解する必要があります。その上で、施策、顧客体験などすべての顧客接点において一貫性を追求していくことが大切です

まとめ

中小企業には大企業のような資本力や存在感がないことが一般的です。だからこそ、ブランディングによって企業の信頼性を獲得し、競合他社と差別化していくことは中小企業のビジネスの発展にとって強力な手段となります。大企業にはできない柔軟で迅速という強みを活かしていくことが大切です。

残念ながら、よい製品やサービスを提供していれば自然と売れるという時代は過ぎ去りました。
溢れる情報、多くの競合、コモディティ化といった中から自社の製品やサービスを選んでもらうことは簡単ではありません。しかし、その敷き居を低くし、選ばれる存在になるためには、ブランディングは必要不可欠です。顧客を強く惹きつけ、顧客との関係を深化させるブランドを作り上げることが、これからますます必要になってくることでしょう。

「うちは小さいお店だから」「当社は高級路線じゃないし…」といった考え方は適切ではありません。ブランディングは企業の大小にかかわらず、どのような会社や店舗であっても行うべき事業戦略です。ブランディングは中長期的な取り組みですので、競合他社より一日も早くはじめることを強くおすすめします。